Lydian

Mail Magazine

メルマガ8 ロジャース/ハート

2017 9.16

作曲家・作詞家コンビ1 リチャード・ロジャースとロレンツ・ハート

 今回は作曲家と作詞家のコンビについて解説します。楽器だけで演奏されることも多いスタンダードですが、ジャズチューンは別としてアメリカンポピュラーソングはほとんどが歌曲として書かれていますから、歌詞は当然重要な意味を持ちます。

 歌を好きだったり嫌いだったりするのは当然歌詞も大きく影響します。例えば、メロディーを良いと感じても歌詞が気に入らないと、例えばカラオケで歌う気にならないですよね。日本人にとって、英語の歌詞の面白さを理解するのはハードルが高いですが、Lydianではできるだけ事前に曲を告知するようにしているので、ヴォーカルを聴く機会には歌詞を事前にチェックするなどしていただくとより楽しみ方が増えると思います。

 アメリカンポピュラーソングの多くはミュージカルの中の挿入歌として作られました。作曲家と作詞家はタッグを組み、一つのミュージカルの中の歌を何曲も作ることになります。そしてそのミュージカルが当たれば、次のミュージカルの依頼も入ってくるので、ヒット曲を生み出すコンビは、何年にも渡って数百曲も生み出すことになります。

◎ミュージカル挿入歌の黄金コンビ

 リチャード・ロジャース(Richard Rodgers・作曲)とロレンツ・ハート(Lorenz Hart・作詞)、この二人はガーシュイン兄弟(兄のアイラが作詞、弟のジョージが作曲)と並んで最も成功したコンビです。二人を称してRodgers/Hartと呼ぶこともあります。彼らは30タイトル以上のミュージカル・映画に曲を提供し続けました。1本のミュージカルには十数曲の挿入歌が作られますから、大変な数の曲を送り出してきた事になります。

 彼らは1918年、ロジャースが16歳、ハートが23歳の時に出会って曲作りを始め、1925年に,彼らにとっての最初のヒットミュージカルとなる「The Garrick Gaieties《(スタンダードの「Manhattan《を含む)までは下積みを続けましたが、これ以降は次々とミュージカル向けの歌曲を作り続けて、ハートが1945年に亡くなるまで続きました。

 よく、歌詞が先か曲が先かという命題があり、どちらもあるということになっていますが、この二人に関する限り、ほとんど同時進行だったようです。ピアノに向かっているロジャースの傍ら、ハートが壁に向かって歌詞のメモを走り書きしているという写真も残されています。歌われる場面の台本は当然あるわけですから、そのストーリーを理解している二人が、時には歌詞を時には曲の断片を提示し、それにインスパイアされた相方がメロディーや曲をつけていくという共同作業だったようです。

 ジャズマンがよく演奏するスタンダードだけでも、枚挙にいとまがないくらいですが、ここでは一部を挙げておきましょう。歌詞を楽しむ意味でも今回の音源はヴォーカル中心に。

・Have You Met Miss Jones 

フランク・シナトラ、やっぱり良い声です。歌詞が表示されます。

・I Didn't Know What Time It Was

・The Lady Is A Tramp

・My Funny Valentine

最近映画で話題のチェット・ベイカー。この人の歌い方にぴったりの曲ですね。

・My Romance

・Spring Is Here

 youtubeなどで聴けるので、この他にも探してみてください。それぞれの曲調が全く異なることに気づかれるでしょう。劇中歌ですから、シチュエーションに合わせた曲作りをしなければならないのは当然とはいえ、これだけ魅力的な全く異なる曲を生み出す才能には、改めて感嘆せざるを得ません。

◎オススメの伝記映画「ワーズ&ミュージック《《 ・Rodgers/Hartの画像検索結果

ピアノに向かっているのがロジャースです

 幾多の吊曲を世に送り出した彼らですが、人となりは対照的だったようです。ロジャースはビジネスマンのようにきっちり仕事をこなすタイプだったのに対し、情熱的で気まぐれなところもあるハートは、打ち合わせに遅れたり姿をくらませたりとロジャースをイライラさせたり心配させたことも多かったようです。

 二人を主人公にした「Words And Music《という伝記映画が作られています(日本語版のDVDがアマゾンなどで買えます)。アメリカンポピュラーソングの作曲家は伝記映画が作られるほどリスペクトされているという話を以前のメルマガで書きましたが、この二人については吊コンビぶりが素晴らしかったことに加え、性格も対照的だったことから二人を主人公にしたストーリーが作られたのでしょう。

 この中ではハートが好きな女性を求めて得られず、寂しさを紛らすように派手な生活を続けて健康を害していったようにストーリーが書かれています。実際にそうだったかどうかは分かりませんが、ハートが求めて得られない切なさを歌詞にしたSpring Is Hereという曲があります。直訳すれば、「春がここにある《ですが、ここにある春にも全く心が動かないほど、冷え切った寂しい心のうちを詠っています。 ・Spring Is Here歌詞

 ここはやっぱりビル・エヴァンスの吊演でしょうか。歌詞がなくてもその世界を完璧に表現しているように聴こえます。youtubeを載せますが、これはCDで聴いていただきたいですね。

・Spring Is Here

 ハートが亡くなった後、ロジャースはオスカー・ハマーシュタイン2世という、全く異なるタイプの作詞家とコンビを組み、これまた素晴らしい曲をたくさん書きました。その成果が最も素晴らしい形で花開いたのがミュージカルとミュージカル映画、「Sound Of Music《です。別項目で紹介する予定です。

**********************************

◎Lydianからのお願い**セミナー企画へに向けてのアンケートご協力**  ジャズという音楽はポピュラーミュージックではありますが、抽象度が高い音楽でもあります。別の言い方をすれば、あるハーモニー、あるコードの時に使える音やリズムを拡大してきた結果、音楽的に高度になり、現代的な響き、現代的な音使いを獲得した半面、直感的に和音と旋律の関係を理解しにくい面があるとも言えます。

Lydianからのお知らせ2  Lydianでは地酒を氷温でお出しています。どれもおすすめですが、飲まれたお客様からとても美味しいとおっしゃっていただくのが、この伯楽星の純米吟醸です。一切の雑味がなく、澄んだ香りとうま味だけを感じます。あるお客様が言われた「研ぎ澄まされた味《という表現がぴったりです。

 そうであれば、一聴しただけでは分かりにくい演奏、曲であっても、知っておけばよりジャズを楽しんで聴ける知識や音楽的体験があるはずですが、残念なことにリスナーがそうした情報を得られる機会はほとんどないように思えます。ジャズ入門的な本はたくさんありますが、多くはジャズを長年聴いてきた書き手が自分の聴き方やうんちくを押し付けるような内容だったり、ミュージシャンの人物像や時代背景だったりします。加えて、CDという記録された音源を対象としていて、現在ジャズライブで演奏される演奏を対象としていません。

 そこで、Lydianでは週末の昼間の時間帯に、「ジャズリスナーのための演奏付きセミナー《を開くことを考えています。文字や言葉だけでなく、実際の演奏によってジャズを楽しむためのポイントをお伝えして行こうというものです。よくある楽器演奏者向けのワークショップのように楽理的には踏み込見ません。リズム、テンポ、音の使い方などの音楽的要素が変わることで、私たちの耳への聴こえ方はどう変わるかということを、プロの演奏を聴いて体験いただこうという、リスナーに特化したセミナーです。トリビア的な要素も入ってくると思います。

 現在は企画を考えている段階なので思いつきに近いのですが、以下のような内容のイメージです。

・テンポやリズムパターンによって曲の聴こえ方はどう変わるか? ・単音での旋律とハーモニーが付いた旋律はどう違って聴こえるか? ・ジャズのコードのカッコよさ、美しさはどこから来るか? ・アドリブの長さは決まっているのか? ・転調はどんな効果を生むか? ・なぜ「枯葉《はライブで演奏されることが少ないのか? ・なぜスキャットするヴォーカリストが少ないのか? ・なぜコードだけでアドリブができるのか? ・シンコペーションは気持ち良い?気持ち悪い? ・吊曲と言われる曲をよいと思えないのは何故か?

①このような内容のセミナーにご興味がおありでしょうか? ②上記項目の中で特に興味のある項目があればお知らせください。 このほかにも、ここが知りたいという内容があれば、それも是非 お知らせください。

 おかげさまでメルマガに登録いただいているお客様が200人を超えているので、ご回答に返信はできないと思いますが、是非今回のメルマガに返信いただく形での回答をいただければ幸いです。

ページトップへ