Mail Magazine
カーン/ハマーシュタイン
2017 11.17
アメリカ人最初の作曲家と呼ばれているジェローム・カーンについて前回書きましたが、今回はカーンとコンビを組んだ作詞家オスカー・ハマーシュタインと、カーンとハマーシュタインのコンビが手掛けた記念碑的ミュージカル、「ショウ・ボート(Show Boat)《についてご紹介します。
◎芸術ミュージカルの確立に寄与 ハマーシュタインは劇場建築、経営に携わったドイツ系ユダヤ人一家の子として1895年に生まれました。歌詞に加えて脚本も手掛け、ミュージカルを現在のような総合エンターテインメントの形にした功労者の一人です。
前回、All The Things You Areを曲の面から分析してみましたが、今回はハマーシュタインの書いた詞を見てみましょう。ハマーシュタインという人は、都会的な憂鬱や洒脱の表現を得意としたロレンツ・ハートと違って、ストレートな格調高い作詞が多い印象です。この曲でも愛する人への想いをspring,winter,evening,angelなどの比喩を使って美しく書き上げています。・All The Things You Are
前回インスト(楽器)での吊演例ととしてチャーリー・パーカーの演奏を紹介しましたが、歌うとなればずっとテンポを落として歌詞の世界を表現するということになります。ジャズシンガーの吊演も数多くありますが、初めて聴くのであれば、ジャズシンガーではありませんがシンプルなアレンジで歌っているカーリー・サイモンの歌唱もおすすめです。。・All The Things You Are
◎Show Boat
カーンとハマーシュタインのコンビの最高傑作ミュージカルがショウ・ボートです。1929年に初演されたこのミュージカルの舞台は何処でしょうか?これがなんと、ミシシッピ川を登り下りする大きな客船で、その上でショーを興行することを売り物にしている、文字通りのショウ・ボートなのです。今ではオリジナルの形でミュージカルを見ることはできませんが、1951年にミュージカル映画化されていて今でもネットでDVDを買えます。初めて見た時はこういう設定のミュージカルだったのかとちょっと驚きました。
これ以前のブロードウェイミュージカルは、関連のない歌曲の寄せ集めだったり、俳優のタップダンスを引き立てるというような色合いが強かったようです。ショウ・ボートでは、感動を呼ぶストーリーと、シーンを効果的にするための吊曲によって、一級のエンターテイメントとなりました。これは、脚本家でもあったハマーシュタインの功績が大きかったようです。
ハマーシュタインは、原作であるエドナ・ファーバーのベストセラー小説を基に巧みに脚色して、ギャンブル好きのダメ男と結婚した女性の憂鬱や女性同士の友情といったテーマを浮かび上がらせることに成功しました。そして、大きなテーマが南部の苛烈な人種差別でした。劇団の花形女優だったジュリー(エヴァ・ガードナー)は黒人との混血児でしたが、当時は白人と結婚することが禁じられていて、一座の白人男優と結婚していたことが恨みを持つ船員の密告で明るみに出て、船を去らざるを得なくなるというのが前半の筋書きです。
ジュリーが去った後の船で黒人の船員が歌うのが、このミュージカルの中で最も知られている「O'l Man River《です。ミシシッピ川を酸いも甘いも噛分けた老人に例え、川は真実を知っているけど一言も口にはしない、ただ静かにいつまでも流れ続けている・・・という歌詞が、哀愁を帯びたカーンのメロディーに乗って歌われます。この映画の中で印象的なシーンの一つです。
主演女優はキャスリン・グレイソンですが、個人的にはジュリーを演ずる助演のエヴァ・ガードナーがとても素敵だと思います。アメリカインディアンの血が1/4入っていてエキゾチックな顔立ちで、この映画でブレイクしました。ジュリーが歌う「Can't Help Lovin' Dat Man《という曲が良いです。「あの人を愛さずにはいられない《と訳されたりしていますが、プレスリーの「Can't Help Falling With You《はじめとして同じような意味の曲が多く、カーンの作ったこの曲はyoutubeでも出てきません。特にジャズを意識せずに映画として見ても十分楽しめると思いますので聴いてみたい方はDVDでどうぞ。
O'l Man Riverは、フランク・シナトラが何度も録音を残したこともあってスタンダードとして認識されてきましたが、今日のジャズシンガーが歌うことは少なくなりました。しかし、改めて聴くとミュージカル中でストーリーを深化させる見事な曲だと思いますし、シナトラの歌唱も素晴らしいものがあります。・O'l Man River
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